2015年4月27日月曜日

「ロンドン骨董街の人びと」六嶋由岐子 新潮文庫

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大学卒業後にロンドンにある古美術商の老舗スピンクに就職した女性のエッセイ。

最近ではそれほど極端な傾向は見られなくなったが、ひと昔前まではイギリス特にロンドンで暮らした経験のある日本人が書いた本というとイギリス礼賛か批判の二極に別れていたように思う。
その点この本は非常にバランスがとれていて、それは著者がイギリスに留学した当初に「悪名高い下町」であるイースト・エンドに居を構えた経験が少なからず影響しているからではないだろうか。

著者の同居人タニヤは高学歴で美人の金融アナリスト、シティに勤めるヤッピーだが実はイースト・エンド出身で両親は離婚し母親に捨てられた過去がある。

「廊下に駄菓子の紙袋を捨てたり、犬の糞をそのままにする住人たちの腐ったような目に気がついて?あなたの国では、良心やマナーが欠落している人がそういうことをするのではなくって?でも、イギリスの場合はそれだけではないの。この国の階級社会による貧困が深刻なのは、人間としての感性そのものが欠落している人間以下の人間を造ることなのよ」
そう言いながらも彼女は生まれ育ったこの地から離れることができない。
イースト・エンドが2012年ロンドン五輪のメイン会場となったことをどう感じているだろうか?

タニヤの父親が母親に贈ったジョッキを持って、著者は彼女と共にTVの鑑定番組の予選会に参加するエピソードにはしみじみしてしまった。

著者は古美術王国の歴史的背景に英国王室の後押しを受け世界各地からの美術品の収奪という過去の事実もあることを認めながらも、イギリスが美術品の美しさと歴史的意義を後世に残してきた功績を評価している。

スピンクで働く同僚たち、様々な個性を持つコレクターたち、没落貴族とハウス・セールの話などが冷静でブレない視点と分かりやすい文章で書かれている。
骨董品屋を覗いてみたくなる本。

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