南フランスの風光明媚な避暑地に遊びに来た青年のカメラの中に、いつのまにかツーロン軍港を写した機密写真が入っていた。青年は自らの手で真犯人を突きとめるか、国外追放の憂き目に会うか、絶体絶命の窮地に立つ。第二次世界大戦前夜を背景に、スパイ小説のスリルと本格謎解きの興味をあわせもち、今や古典的名作となったアンブラー代表作。
裏表紙あらすじより
有名な作品ですが、わたしの苦手な重くて暗い話だと思い込んでいたので今まで敬遠していました。ところが、英国伝統の素人巻き込まれ型冒険小説なんですね。
スパイ容疑で留置所に放り込まれた主人公が、良い考えが浮かんでベッドからはね起きるとズボンがずり落ちる(自殺防止のためベルトが没収されている)という窮地に陥った状況の中で笑いを誘う場面があります。こうしたエピソードのように、第二次世界大戦前という切迫した世界情勢の上にほぼ無国籍状態という救いようがない状況でありながら、おっちょこちょいな好青年という位置づけの主人公のキャラが重苦しい雰囲気を和らげストーリーの厚みを増しています。
この作品が執筆された1938年はまだ英国伝統の冒険小説の一部として存在していたスパイ小説が、戦争を経てル・カレやデイトンに代表される一時期隆盛を極めた暗く重苦しいエスピオナージと呼ばれるものにとって代わられ、その後、KGBという好敵手の喪失によってスパイ小説そのものが魅力を失っていった経緯を考えるにつけ、もう一度正統派冒険小説の中のスパイ小説が復活して欲しいと切に思う次第です。アマチュアの復活(復権)とでも言ったらよいのでしょうか…。
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