2015年4月27日月曜日

「クリスティーに捧げる殺人物語」ティム・ヒールド 編 ハヤカワ文庫(ミステリアス・プレス)

☆☆☆

ミステリ史に残る数々の名作・傑作を発表し、現代の作家にも大きな影響を与えたクリスティー。このミステリの女王の功績を讃えるため、ピーター・ラヴゼイ、ポーラ・ゴズリングら英国推理作家協会の実力派13人が結集して、彼女が活躍したミステリ黄金時代を舞台に短篇を書き下ろしました。古き良き英国探偵小説の楽しさに満ち溢れたクラシカルな短篇集です。 内容紹介より



母が消えた日(マーガレット・ヨーク)、煙が目に……(デイヴィッド・ウィリアムズ)、メイヘム・パーバの災厄(ジュリアン・シモンズ)、恋のためなら(スーザン・ムーディ)、旅行鞄の中の貴婦人(ピーター・ラヴゼイ)、ジャックは転んだ(H・R・キーティング)、検察側の達人(ティム・ヒールド)、最悪の祭日(ポーラ・ゴズリング)、水曜のマチネー(シリア・デイル)、クソくらえ(リサ・コディ)、文学史のお時間(サイモン・ブレッド)、こぞって楽しいひととき(ロバート・バーナード)、晩餐会の夜に(キャサリン・エアード)

面白くて、さらに感心させられた作品は、『恋のためなら』と『こぞって楽しいひととき』です。
プロットが秀逸な『恋のためなら』は、まさしく題名がすべてを表していますが。保険金詐欺の疑いが掛かる男を内偵する女保険調査員が殺人事件に巻き込まれて、ピエロことポアロに出会うユーモアミステリ。短編ながら、騙される楽しさを久しぶりに味わいました。

『こぞって楽しいひととき』には着想の妙があると思います。
『クリスティと英国階級制度』(本みしゅらん新社 刊※)によると、「使用人たちは黒子のようなもので、その作品中においては重要な役割を与えられず、一般的に人畜無害な存在であることが多い。階級制度、階級意識が頑然と存在していたクリスティの時代には、おおむね彼等の存在は意識外に追いやられていた※」
こういう英国文学における使用人階級の位置付けは、現代まで続いていたが、
「カズオ・イシグロの『日の名残り』が、それまで正統的英国文学史上、メインの存在とは成り得なかった「執事」という一労働者階級に属する人間を主人公に据えたことで、文学サロンつまり上流階級(文学のパトロン)の間にセンセーションを巻き起こしたわけである。そして、従来、セッター犬に払うくらいの認識でしかなかった使用人階級に対し、彼等の目を向けさせたのである※」

まあ、そういう時代背景を逆手に取って使用人という、いわば透明人間化している者たちの視点から事件を眺めさせ、推理・検証させたお話です。あるいは、ポアロのいる表舞台を裏から覗いているような…。ここまで上品かつ上手にクリスティをパロディ化した作品はないでしょう。さらに、クリスティの作品を考える上でも示唆に富んだ短編だと言えます(ちょっと大袈裟かも)。

ただ、20ページほどの作品なのに登場人物が多過ぎ。

注)末尾に※印が付いている文章は、わたしの妄想及びフィクションであり、実際の事柄とはまったく関係がありません。

クリスティーに捧げる殺人物語 / ティム ヒールド、 他

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