2015年4月27日月曜日

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平和な田舎町コブに、自転車に乗ってどこからともなく現われた料理人コンラッド。町の半分を所有するヒル家にコックとして雇われた彼は、舌もとろけるような料理を次々と作りだした。しかし、やがて奇妙なことが起きた。コンラッドの素晴らしい料理を食べ続けるうちに、肥満していた者は痩せはじめ、痩せていた者は肥りはじめたのだ……。悪魔的な名コックが巻き起こす奇想天外な大騒動を描くブラック・コメディの会心作。 
                      あらすじより



コンラッドのラストシーンの姿を見る限り、彼は悪魔というより、美食のために悪魔に魂を売り渡した人間のような気がします。そこには食欲という欲望を追い求めた人間の醜さが現れているような…。後半以降はストーリー展開が読めて少々冗漫な感じもしますが、かなり奇妙で無気味な名作であることには間違いありません。

小林信彦氏は、「日本人はケータイと〈食〉にしか興味を持っていないのではないか。」(『物情騒然』文芸春秋)という達見を数年前に示しましたが、まだまだ日本人は甘いのではないでしょうか。本書にもありますが、たくさん食べるためにわざと嘔吐した古代ローマ人の健啖家、美食家ぶりのレベルにはまだまだ追い付いていないし、マスコミに取り上げられるグルメ料理も単品中心ですよね。ヨーロッパの晩餐のように延々と何時間も続く食の饗宴(質と量を共に兼ね備えた)、それに興じることのできるマナーを持った人間がいる食文化は日本には未だ存在していないと思います。しかし、それが日本において普通になった暁にはこの寓話も現実味を帯びることでしょうね。

料理人 料理人
ハリー・クレッシング (1972/02)
早川書房

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2 件のコメント:

  1. SECRET: 0
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    「料理人」コンラッドは、欧米の小説によく出てくる「悪魔」なんでしょうね。でも露骨に描写せずに、暗示にとどめているところが、それなりに洗練されている感じがします。
    とはいえ、てん一さんの言われるように、けっこう冗漫なんですよね。中編ぐらいの長さだったら、もっと締まった作品になったと思うんですが。

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  2. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    こういうテーマを思い付いて、長編を書けるというのはすごい力量だと思うのですが、ハリー・クレッシングは謎の作家らしいですね。実は名のある作家なのでしょうか。

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